午後三時。鰯雲は薄れ、南の空に白い雉鳩の尾羽根のような形に広がった雲が、海に深い投影を落としている。
海、名のないもの、地中海であれ、日本海であれ、目前の駿河湾であれ、海としか名付けようのないものでかろうじて統括されながら、決してその名に服しない、この無名の、この豊かな、絶対の無政府主義(アナーキー)。
— 三島由紀夫「天人五衰_豊饒の海・第四巻」(p6)